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12. 効果的な情報発信で目利きの知恵を呼び込む

4月上旬、ある日の地元新聞の朝刊にこんな記事が出ました。

「平成16年3月「めぐる町」では、地域で「使える」バイオマスや自然エネルギーの利活用を、産業基盤強化の重点領域と位置づけ、有機農業技術のさらなる高度化、高付加価値化と、商工観光開発と連携した戦略的な地域ブランドの強化を目的とした、バイオマス戦略を策定した。

  1. 地域循環型の高品質な有機栽培技術の開発
  2. バイオマスを始めとする自然エネルギーの利活用
  3. 地域経営資源を最大限に生かす社会システム作り

などを総合的に検討し、地域循環型農村社会形成の全国的な先進モデル地域となることを目指すとしている。」

実は、これは野比さんの作戦でした。事前のヒアリングや、戦略策定のアンケートなどで、なかなか関係者の腰が重いことに気がついていた野比さんは、知り合いの県の広報担当者と新聞記者に頼んでニュースリリースを打っておいたのです。衆目を集めることで、町内の意識が前向きに変化すると同時に、間違いも起こりにくくなると考えたからです。

さらに、これにはもう一つ大きな成果がありました。新聞に掲載された日から、大小さまざまなメーカーからの、問い合わせや事業提案の打診が役場に殺到しはじめたのです。

「設備導入ですか?ええ。もちろん検討していますよ。」野比さんも応対に追われていますが、そこで厳しい一言が飛びます。これまでの経過で野比さん自身も、もはや並みの営業マンには負けない知識になっています。

「御社のプラントを導入すると、どのくらい農家が利益を出せますかね?」

この質問に即答できる営業マンは大手メーカーにも残念ながらそうはいません。なぜなら、電話だけでは、地域の実情も、実際の資源量もわからないのですから。それでも、機械の性能ををただ説明しようとする営業マンには、とりあえず資料を送ってくださいとだけ伝えて受話器をおきます。

たくさんの情報を集め、その中でも最も対費用効果がよく、かつ運営面での提案も確かな企業を選び出すため、「公開技術プレゼンテーション」を開催し、ワークショップやシンポジウムなどを展開しました。こうしたイベントは繰り返しメディアにも取り上げられました。この間に地域と企業との間の相互信頼関係が作られ、良好な企業コンソーシアムが形成されていったのです。

「お客さんの利益を提案するのがホントの営業じゃないのかなぁ。」

野比さんの実家は町内の商店街でも結構繁盛している「八百屋」です。子供の頃から両親の売り文句を聞いてきた彼には接客の基本が身についていました。 野比さんのお母さんは、訪れたお客さんに「奥さん、今日はいいダイコンが入ってるのよ。買ってって」とは言いません。まず、毎朝必ず、向かいの魚屋に行き、今日のお勧めを聞いてきます。そして、こう言います。「奥さん、今日は向かいの魚屋にいいブリが入ってるわよ。今夜はブリ大根なんかどう?」 そして、若い奥さんには、「大根はこうやって、皮を薄くむいて、これが『桂むき』。それからこの角っこをとるの『面取り』こうすると煮崩れないの」 目利きの知恵を提供することは、モノを売る人に共通する付加価値を生みだす大事な技術なのです。「そうすると、お客さんは信頼して安心して、何度も来てくれるようになるでしょ。」そう言って屈託無く笑う母の顔が目に浮かびました。

「そういえば最近忙しくて、あんまり実家に寄ってないな。今日は早めに切り上げて寄ってみるか・・・」

その夜は、久々におふくろの味である「ブリ大根」を堪能しました。バイオマス戦略は良好な家族関係にも有効なようです。

よもや、役場勤めの自分自身が「営業マン」になろうとは思いもよらずに・・・

事業計画者のための着眼ポイント

(6) 広報、PRの効果的活用

この段階では概ねどの地域においても、まだバイオマス利活用についての理解は進んでいない。 地域住民の興味を喚起し、事業への理解を深めるために、内外に向けた情報発信が有効である。 自治体の広報担当者や、新聞記者等との良好な連携により、継続的な取材および発信が期待できる。

13. 地域を経営する新事業体の誕生

めぐる村のバイオマス推進事業もビジョン作りから2年が過ぎ、様々な商材が出来上がってきました。 高品質な稲わら堆肥は、県外からも引き合いが来るようになりました。もみ殻くん炭の敷材で平飼いされた鶏卵は口コミで評判となり、通常よりも一パックあたり20円から30円高値で流通するようになりました。また、この卵を使って作られた「マヨネーズ」も東京のレストランから引き合いが来るようになりました。森林組合による「芽来型デザイン健康住宅」も徐々に受注を増やしていますし、ガス化プラントも来年度の導入に向けて設計の検討が重ねられています。BDFのほうは、当初1リットル60円で採算を取るはずでしたが、80円の壁を越えられずに苦戦しています。ただし、菜の花油の販売量が伸びている上に、平飼いの採卵鶏が非常に美味しいことがわかったことから、市民活動のメンバーが始めた、ヘルシーから揚げ丼(ご飯の上に養液栽培のトマトをスライスして乗せ、菜の花油のから揚げにマヨネーズをトッピングしたもの)が大評判となり、県外からも食べに来るお客さんで行列の出来るお店になっています。

さらに、こうしたバイオマス製品を生み出している、めぐる町を見学に来たいという問い合わせで、役場の電話がほとんど鳴りっぱなしになってしまいました。まさにうれしい悲鳴です。

そこで、こうした商品販売における総合商社的役割や、村内のバイオマス利活用の成果を「めぐる」エコツアーを運営する組織として第三セクターの会社を立ち上げることになったのです。NPOへの委託、事業協同組合も検討されましたが、事業収益をあげ、法人税を町に納めるのがむしろ健全であるとの考えから、独立した株式会社とすることが決まりました。バイオマス利活用推進の場が、まさに起業の孵化器(インキュベーター)になったというわけです。

そして、火付け役の野比さんに人生の転機が訪れます。町民からの信頼も厚いということで、なんと社長に就任することになったのです。

事業計画者のための着眼ポイント

(7) 地域トータルブランディングが可能な事業体の形成

残念ながらこれまでの第三セクターには自治体からの補助なしに事業が成立しないものも多く存在する。単一の製品の販売や、マーケティングの間違った規模の施設などにとらわれてしまいがちだからである。バイオマス利活用を切り口とした事業開発を含め、今後の地域ブランド開発事業には、柔軟な企画力と、 事業連携のコーディネート力商品化のノウハウ(マーチャンダイジング)が重要な要素となる。

14. 舌の上からはじまるバイオマス推進

「このトマトすごくおいしいー!!」

子供たちが目をまん丸にして、トマトにかぶりついています。持続農業法による認定を受けて、エコファーマーの認定を受けた剛田さんの畑では、収穫体験の真っ最中です。

実は剛田さん、新年度から地元の小学校の総合的学習の社会人講師となりました。剛田さんの講義は単なる収穫体験ではありません。村内の資源循環をたどってゆくバイオマスタウンツアーのガイドなのです。もともと兄貴肌で面倒見がよく、弁の立つ剛田さんの講義は、子供たちばかりでなく、様子を見に来た大人達にも面白いと口コミで評判になって、まず地元のTVで、それから全国ネットのニュースで取り上げられてからは、毎日のように全国から「生徒」が訪れるようになりました。

「そのトマトはね。鶏のウンチでできてるんだぞっ。」

剛田さんは、うれしそうに言います。

「えーっ!」「いみわかんなーい!」「きたなーい!」「うそつきー!」

子供たちは口々に叫びます。

「うそじゃないぞー。ほら、これをみてごらん」

そういって剛田さんは、堆肥を一掴み持ってきました。

「あれー臭くないよ、これウンチじゃないじゃん」

「そうだね。実はもうこれはウンチではなくて『堆肥』というんだ。でも、この原料はね、本当に鶏のウンチと、それから稲わらなんだ。そしてこれがトマトをおいしくしてくれる畑の大事な栄養なんだ。それじゃあ、みんなで鶏舎を見に行ってみようか!」

剛田さんをかこむように子供たちがぞろぞろとついて行きます。なんだかすっかりガキ大将時代に戻ってしまったみたいです。

「おならって燃えるの知ってる?このタンクには実は、おならが詰まってるんだ。」

トマトを作っているビニルハウスの脇にある銀色のタンクを、カンカンたたきながら剛田さんは言います。

「豚や牛のウンチから、たくさんの微生物たちが『メタンガス』をつくってくれるんだ。メタンはよく燃えるガスで、みんなのおならの中にも含まれているよ。だからおならも集めると燃えるんだ。 メタンガスは冬のハウスの暖房や雪を溶かすお湯を沸かすボイラーの燃料につかうんだよ。」

めぐる町の「バイオマス越冬農業システム」は、いまや全国でも有名です。剛田さんは、めぐる町の越冬農業のいわば宣伝マンの役目も果たしているのです。 また、メタン発酵の際に残る消化液も、液肥としてハウスでの養液栽培に使われています。

それから余談ですが、剛田さんは実は独身だったのですが、TVを見てバイオマスタウンツアーに参加したというかわいい娘さんと、来春めでたく結婚することになったのです。バイオマス推進は、なんと独身男性の救済にも有効なようです。

事業計画者のための着眼ポイント

(8) 地域への愛情、愛着に根ざしたホスピタリティの醸成

地域での魅力的な取り組みは、外部からの評価を得ることでより活性化する。 つまり、町民が自信を持って自分の住む町を「おすすめ」できるようになる。 バイオマス利活用で得た話題性を、取り組みの結果生まれた商品や地域産品の 販売促進につなげて行くためには、小さくとも住民の自信につながる 事業を数多く育成し、さらに、それらを地域住民の声として発信できる 人材育成と場づくりが非常に重要である。

(9) 学校教育の重要性

10年単位で地域の将来を考えるとき、現在小中高校生である学生も、担い手として重要である。特に中山間地域や 島嶼地域においては、将来も自分の故郷に住み続けることができないかもしれないという現実がある。バイオマス利活用はこうした子供たちにとっても人生設計の一つの選択肢を与えられる可能性を持っている。地域に住む子供たちが将来の夢や希望を描けるような、社会システムに裏付けられた学習ツール開発もまた、 地域のバイオマス利活用推進に課せられた重要な使命である。