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15. 人材不足と職能開発の重要性

新会社の船出は一見前途洋洋に見えました。

しかし、事態はそう簡単ではありませんでした。

当初、町に新しい雇用の場が出来たと喜ばれていましたが、実際に業務が始まって、野比さんはまず、町内から集まったスタッフの能力に愕然としました。元大手建設会社の営業課長だったという花輪さんは、お客様に「ありがとうございます」がいえません。元自衛隊員の長山さんは、柔和な性格で、自然や昆虫に詳しいのですがそれを利活用した事業開発には 全く興味がないようです。新卒で入ってきたみぎわさんは、当然のことながら電話の応対もおぼつかない状況です。一度などあまりに 馴れ馴れしく電話をしているので、私用電話と思いたしなめたところ、東京の取引先の事業部長さんとだったり・・・。

何より、地域循環型の事業の連携を強化して、販売力を強化しなければいけないこの大事なときに・・・

都市部へ販路を広げるために、自分が営業にいかなければならないというのに・・・

めぐる町を見学に来た他の地域でも同様の循環型地域づくりへの取り組みは始まっています。野比さんは、バイオマス利活用への取り組みはいずれ全国的に「当然の」事柄になり、それだけでは他の地域との差別化が難しくなるであろうことにも、気がついていました。

売り上げ的には今のところ、町内から文句が出ることは無い程度には実績が上がっています。そのため、連日訪れるバイオマスツアー客に対応するために、町ではやや規模の大きな宿泊施設を建設する計画が持ち上がっていました。 温浴施設や、レストラン、アンテナショップ機能などを備え、めぐる町の集成材を構造にもふんだんに使った立派な計画です。そして、それらの事業運営も、この会社に委託される予定となっています。 

「しかし、10年先にはいったいどうなっているだろうか・・・」  

もともと、高齢化が進み、人口も徐々に減っているところへ、にわかに「バイオマス・ブーム」がやってきたわけです。野比さんが要求するような地域を俯瞰する目と企画力をはじめから持っている人材はそうそういません。ふと気付きました。思えば3年前の野比さん自身もそうではなかったか・・・

そして、「人材」育成が何より急務であると考えたのです。

事業計画者のための着眼ポイント

(10) 事業の担い手の育成の重点化

バイオマスの利活用の推進はむしろ都市部よりの農山漁村地域での活性化の鍵として捉えられることが多い。目玉となる施設導入や、事業開発のみに目が行くのは致し方のないことであるが、そもそも、過疎地域であったり、担い手の高齢化によって耕作放棄地や地域の文化継承が危うくなっていることを忘れている事業計画が多いこともまた事実である。一方で、都市部にはまだまだ十分に元気なシニアや、優秀な学生が確実にいる。こうした人材のU・Iターンの環境を整備することが、地域産業の担い手を呼び込むことにつながるのである。

16. 地域プロデューサー養成のカリキュラム開発へ

そこで、野比さんは考えました。地域循環を「企画」できる人材育成そのものを商売にしてしまおう。しかも世の中にバイオマスの先進地域と言われている今しかない。野比さんは、宿泊施設の計画に運営側として大幅な修正案を提案することにしました。

宿泊部分に関しては、複数の施主が、共同で土地の取得等を行い、共同で設計して建設する集合住宅(コーポラティブマンション)として、かつデザイン性の高い村営住宅として定住可能にすることを提案しました。そして、中小企業庁の新連携開発事業のパイロット事業として申請し、「次世代のバイオマス企業家よ!来たれ!」と銘打って、I・Uターンの重点的受入れを行うことにしたのです。

条件は芽来町でのバイオマス利活用への熱意と事業アイディアを持参すること、それらを評価する基準や地域プロデューサー養成のカリキュラムを検討する委員会組織として、同時にそれらを事業計画として設計する能力を開発するための講師陣として、それぞれの分野でもはや有名人となっている村内の有識者、農協の指導部長、 持続農業法による認定を受けて、いまやエコファーマーの代表となった剛田さん、菜の花市民活動のNPOメンバーなどに加え、バイオマス、エネルギーの専門家たちを招聘し、バイオマス塾を開塾したのでした。

効果はてきめんでした。第二の人生を歩もうと考えるメーカー技術者や、フリーのプランナー、アーティスト、農学系、工学系、社会科学系の様々なジャンルの学生など優秀な人材が集まってきたのです。そして、そうした人材が集まってくることによって、花輪さんも長山さんも、みぎわさんも刺激になったのでしょう。数ヶ月もすると目の色が変わっていました。皆明らかにやる気がみなぎっています。

そして、次々と新しいバイオマスの実証事業にチャレンジする企業家や研究者が生まれ始めたのです。地元の加工食品会社と一緒に新しい発酵健康食品をつくる研究を始める者。休耕地で作ったトウモロコシの澱粉から特殊な機能性生分解プラスチックを作る研究をする者。バイオマスをテーマに子供たちにもわかりやすいように「絵本」や「総合的学習の時間」に利用できるパソコンソフトを作る者。これまで、あまり利用されていなかった海藻を養殖し「海のバイオマス」として活用する技術開発に取り組む者。菜の花に加え、牧草を用いて低コストにバイオエタノールを作り出す技術開発に取り組む者。 水素細菌を培養して、作り出した水素で燃料電池で発電するシステムの基本設計に取り組む者。間伐材の伐採の省力化を図る、チッパーやハーベスターの開発、気球を使った丸太運搬の仕組みに取り組む者、等々。

めぐる町の独自技術といえる特許技術が毎年少しずつ蓄積されてきています。こうした、権利管理と製品開発企業との交渉等の代行についても、会社の新たな業務になっています。

どれも、まだまだ実用化して採算ベースに乗るのは先かもしれない・・・。しかし、10年後、そしてもっと先の時代のめぐる町のにとっての、 新たな「芽」がやって「来」たという確かな実感が野比さんの中に沸いていました。

事業計画者のための着眼ポイント

(11) 先進地域であり続けることの難しさ

少なくとも5〜25年程度の中長期的視野において有用な可能性を持つ、短期的に話題性のある基礎技術、中間技術開発を戦略的に地域に呼び込む算段が必要である。一度先進地域となったところでは、逆に組織が大きく成長することで事業の柔軟性を失うことも少なくない。

(12) 権利管理、特許管理への対応

先進的な事業開発への取り組みの際には必ず権利管理についての対応が必要です。アイディアやノウハウも 地域にとっての貴重な資源です。製法特許、製品特許、実用新案、登録商標、ビジネスモデル特許、著作権等など 権利を確保することへの理解は同時に、他の権利への侵害のリスクを減らすことにもつながります。